シンデレラは硝子の靴を
ひとしきり笑い終えると、さぁはその場に足を投げ出して座る。




『シンデレラにしか履けない硝子の靴なんか必要だったのかな?』




諒もその隣に腰を下ろした。



『さぁちゃんもそう思う?』



『あんたも?』



頷くと、さぁは今度は悪戯っぽく笑った。




『あんたも相当ひねくれてるんだね。』




仲間に対するような言い方と笑みで、諒はこの時やっとさぁが心を許してくたような気がして、嬉しくなった。




『だってさ、どうして魔法が解けても硝子の靴は残ったんだろう。』




身を乗り出して諒が言うとさぁも頷く。




『うっかりしてたか…わざとか、よね。』




うーんと、小さな二人は頭を寄り合わせて答えを導き出そうとしたけれど。




『あ、しまった。僕、もう行かなくちゃ…』



きっと今頃大人たちが諒のことを総出で捜しているに違いない。





『これあげる』



『えっ…』




諒は慌てて立ち上がって、百合の花をさぁに残していく。





またね、の約束を落として。





金木犀と百合の香りが交じり合い、二人の間を風が駆け抜けていく。




坂道を駆け下りていく諒の顔は晴れ晴れとしていて、内に秘めていた悲しみは、減りはしないものの、増えることもなかった。





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