シンデレラは硝子の靴を



そして、あの日。




漠然とした願望が、決意に変化した日。





いつものように、さぁに会いに行こうと、穴の開いた塀に近づくと。




『…まじ?』




そこには目の細かい網が張ってあった。


恐らく持ち主が気付いて応急処置をとったのだろう。




『―これじゃ、入れない』



諒は高い塀を見上げて、よじ登れないかどうか考えてみる。




『やってみるか。』




幸い人目につかない場所だった為、堂々と登っても、派手にずり落ちても、咎められることはなかった。いやそれ以前に気付かれることが無かった。





『くっそー…』





回数は10を越えた所で数えるのを止めた。



べたつく汗を手の甲で拭って、諒はもう一度トライする。





『やたっ…』





着実にコツを掴んでいた諒は、漸く塀のてっぺんに手を届かせた。




あとは、腕の力で身体を持ち上げられれば良い。




『よっ…と。』




細身の諒は、軽々と塀に跨ると今度は反対側にゆっくりと回って、慎重に下りた。





『あれ、、さぁ、いないのかな…』




枯葉を踏みしめ、きょろきょろと見回してみるが、人影が見当たらない。
< 339 / 416 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop