シンデレラは硝子の靴を
そして、あの日。
漠然とした願望が、決意に変化した日。
いつものように、さぁに会いに行こうと、穴の開いた塀に近づくと。
『…まじ?』
そこには目の細かい網が張ってあった。
恐らく持ち主が気付いて応急処置をとったのだろう。
『―これじゃ、入れない』
諒は高い塀を見上げて、よじ登れないかどうか考えてみる。
『やってみるか。』
幸い人目につかない場所だった為、堂々と登っても、派手にずり落ちても、咎められることはなかった。いやそれ以前に気付かれることが無かった。
『くっそー…』
回数は10を越えた所で数えるのを止めた。
べたつく汗を手の甲で拭って、諒はもう一度トライする。
『やたっ…』
着実にコツを掴んでいた諒は、漸く塀のてっぺんに手を届かせた。
あとは、腕の力で身体を持ち上げられれば良い。
『よっ…と。』
細身の諒は、軽々と塀に跨ると今度は反対側にゆっくりと回って、慎重に下りた。
『あれ、、さぁ、いないのかな…』
枯葉を踏みしめ、きょろきょろと見回してみるが、人影が見当たらない。