シンデレラは硝子の靴を
『さぁちゃん?さぁちゃん?』






名前を呼んでも反応はなく、諒はその場に立ち尽くす。





『家かな…』





掌がひりひりと痛んだ。



折角大変な思いまでしてここまで来たんだから、会わないで帰るなんて考えは毛頭ない。




『行ってみるか!』





諒は自分に気合を入れて、心臓をドキドキさせながら竹林の中を進んだ。




大人に見つかったらまずい。



けれど、さぁには会いたい。




気は逸るけれど、確実に一歩一歩を進める為、足取りには丁寧さが求められた。



広い竹林は、道もでこぼこしていてうっかりすると足を挫きかねない。



途中途中物音がする度、陰に身を隠す。



勿論竹の裏なんかに隠れても意味はないのだが。



―あれか。




そうやってどんどん奥へと入っていくと、見えてきた、日本家屋らしい漆喰の壁。どうも裏側のようだ。




ちらりとでもいい。


少しだけでいいから、見たい。





祈るような気持ちで、さぁが近くにいることを願い、竹林を出る一歩手前で、様子を窺う為に耳を澄ませる。



と。




『この泥棒女!』






突如、耳をつんざくような金切り声が辺りに響き渡った。




―びびった。




諒は見つからないようしゃがんで、肩を縮込ませる。
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