シンデレラは硝子の靴を
今直ぐにでも飛び出したい思いに駆られたが、それよりも前にさぁが動いた。





静かにむくりと起き上がり、パンパン、と洋服から軽く土を払う。




それからゆっくりと諒の居る方に向かって歩き出した。




さぁは裸足で。



真っ白かっただろうスカートは、土に汚れてしまっていた。






『…さぁちゃん』




竹林に足を踏み入れたさぁに、諒が小声で声を掛けると。



死んだようだった彼女の目が驚きで開き、強張った表情が少しだけ柔らぐ。



でもそれはすぐにくしゃくしゃに歪んで。




『…っごめ…』




さぁは竹林の奥へと走り出した。


胸が張り裂けそうになって、諒もその後を追う。



さぁが向かった先は、奥の奥。



誰も来ない場所。


陽の当たる場所よりも、気温が少し低い場所。





『っっ…っくっ…っ―』





そこで、さぁは自分の手の甲を噛んで、声が出ないように大粒の涙を流した。





『―さぁちゃん…』




息を切らしながら、追いついた諒はさぁの名前を呼ぶ。




『僕、わかったよ…』



さぁの持つ、傷の大きさ。


涙の、温度。


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