シンデレラは硝子の靴を
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気がつけば、腕時計の針は正午を差していて、諒は自分が長いことそこにつっ立ったままだった事を知った。






「どうすればよかったんだよ…教えてくれよ…」






返って来ない問いかけは、虚しく部屋に反響する。




時間は経ちすぎてしまったのか。




焦ってはいけないと言い聞かせてきた。



だけど、実際はかなり焦っていた。



やっと目の前に現れたんだ。




こんな幸運、早く掴まないとまた逃げてしまうような気がして。




自分をコントロールしたくてもできない。



抑えようとすれば、傷つけてばかり。





本当、どうしようもない。





でも。




今、自分には守る力が在るのに。




それなのに。




沙耶は諒の世界は嫌だと言う。





お城嫌いのシンデレラは、どうしたら振り向いて笑ってくれたんだろう。







再会からまだ一度も、彼女の笑顔を見ていない。






ふー、と自身を宥めるように息を吐いて、諒は開かれたままでいた手帖を閉じた。






彼女にとって、あの約束はもう、必要ないのだろうか。
 



子供同士の実体のない約束なんだろうか。





他愛ない、ただの―。



諒は浮かんだ考えを振り払うように頭を振った。






「俺は、諦めない。」





例え彼女がもう自分に振り向かなくても。





心が離れてしまっても。





守り貫くと決めた。





せめて。





「お前が奪われたものは、俺が全部奪い返してやる。」





彼女に靴を返すまでは。


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