シンデレラは硝子の靴を
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会社を後にして、諒のフェラーリは国道を走っていた。






ハンドルを操作しながら、物憂げな表情の諒の頭の中には、先程かかってきた電話の内容がリプレイされていた。





《―諒、お前危ないぞ。もしかしたら間に合わなかったか?》





《―持株比率が変動している。》





《気付かなかったのか?お前らしくない。》





《親族で、坂月に加担する奴、いるか―?》






まさかとは思うが、他に考えられない。




数ヶ月前にも通った道を、諒はアクセルを踏み込みながら駆け抜ける。




ここには無い筈の百合の香りが鼻を掠めた。





―できればあそこには行きたくないんだが。




会社を出てからもうずっと、諒の眉間には皺が寄ったままだった。





「なんで『今』なんだ…」




怒鳴る力もなく、呟いた。



この時期に、どうして。




「…楓」



楓のことを、楓と呼ばなくなったのは、大学を卒業してから。



共に働くのに公私混同すると良くない。名字で呼べと。



父親の命令だった。







―『貴方は私を信用して等居なかったでしょう?』





乾いたエンジン音が、加速を知らせる。



雪が降りそうな程、外は冷え込んでいた。



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