シンデレラは硝子の靴を
坂月が向かった先は、イタリアンの店。
ここら辺では、ちょっとした人気店で、ひとつひとつが個室のようになっているので、会話もし易く、周囲に聞かれる恐れもない。
一通り料理を頼み終えると、坂月は沙耶に向き直った。
「マンションのことですが…何も急がなくてもいいんじゃないですか?」
そう言えば、沙耶は困ったような顔をする。
「だってもう働いているわけじゃないですし…家賃とかないのとか、、気味悪いですし…」
「気味悪いって…」
相変わらずな甘え下手に、坂月も苦笑いした。
が、沙耶は構わず続ける。
「母の容態もおかげさまで落ち着いてきたので、、病院の移動手続きもさっき済ませてきたんです。」
「―え?」
これは予想外だった。
「なんでそんな…」
まるで、この地から居なくなるみたいに。
言葉を失った坂月を、沙耶は真っ直ぐに見返した。
「だから…坂月さんのこともちゃんとはっきりさせとこうと思って。」