シンデレラは硝子の靴を
最初に出逢ったのは俺が先だった。


でも大人になってからは、諒が先に見つけた。





どうしてか。





それは、諒がずっとあの約束を追いかけていたから。



真っ直ぐに、あの誓いを守ろうとしていたから。



俺は違う事に。



そう、彼女を守る力すらない事実に、気付いてから。



幼い頃の約束なんかより、追わなければならないものがあったから。



だから、心の奥底に、思い出として封印してあった。





「あの事故の犯人は、秋元さんが言う通り、特定されていますし、今は24時間体制で見張らせてある。首謀者は人を雇って実行した訳ですが、それが諒を狙ってやったのか、巌様を狙ってやったのかがわからなかった。それで、諒に出向いてもらって、もう一度狙うかどうか確認したかったんです。」





フランス語で鶴はgrue。


同時に、クレーンのこともgrueと呼ぶ。



だから、今回のクレーン事故と掛けて、その調査関係のことを鶴と記し、自分だけにわかるようにしてあったのだ。



ただ、諒に怪しまれないようにする為、念の為に黒革の手帖にも書き込み、以前からの取引のように匂わせていたつもりだった。


そうじゃなくても、普段から過密スケジュールなのだ。理由付など幾らでも出来た。




「実際、実行犯は諒については知らなかった。首謀者は諒のことを知っている人物ですし、恨んでてもおかしくなかったけれど…それで、巌様を狙っていたという結論付けに至りました。」




「じゃ、どうして未解決のフリをして―?」




沙耶が途中で我慢できなくなったように訊ねた。




「それは…」




―犯人をまだ、泳がせていたのは。




「諒の意識を分散させたかったからです。」




ガシャン、と何処かで硝子が割れた音がした。


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