シンデレラは硝子の靴を
「…右ストレート。」
押し殺したような笑い声と共に、坂月が呟いた。
「何笑ってんだよ、坂月。お前がいながら、どーいうことなんだよ。」
石垣は口の中に広がる鉄の味に顔を顰めながら、身を起こす。
「ふっ…失礼。まさか、殴られるなんて思っていなかったものですから…くくっ…」
「…のやろぉ…、つーか、なんで説明もしないまま連れてきたんだよ?」
ツボに入ったのか、小刻みに身体を震わせる坂月を、石垣は恨めしそうに睨む。
「……最初から話していたら、彼女はこないだろうと判断したんです。ただでさえ忙しい毎日を送っていて、会うのすら二日もかかったんですから拒否されたら更に面倒なことになりますので。」
「ったく、詭弁だな。単に面白がってるだけだろう。」
呆れたように言えば、坂月はあっさり認めた。
「はい。諒様が他人に興味を示すなんてこと、初めてだったので。」
チッと石垣は舌打ちするだけに留め、沙耶の出て行った扉に目を向ける。
「暴力女。地獄の果てまで追ってやるから、覚えとけよ。」