シンデレラは硝子の靴を
「訊けば、今も昔も好きな女から大嫌いと言われてるらしい。不毛だよね。」



はははと軽く笑い飛ばす嘉納が一体何を言いたいのか、わからなかった。



「その子はきっとさ、諒の居る位置が、自分と違うから、擦り合わさった時、その摩擦に耐えられないと思ってるのかもしれないね。」



でも―と嘉納は続ける。




「…人間てのは皆持ってる物とか立場は違うけど、その場所その場所で、それぞれ必ず何かしらの傷を抱えてるものだって思わない?」




「―何が言いたいんですか?」




沙耶はいつの間にか眉を寄せて、嘉納に問う。





「つまりね。その子は自分でいっぱいいっぱいで、諒がどれだけの荷を背負い続けてきたのかを知らないんだと思うんだ。例えば…どうして諒が佐伯家に拒否反応を示すのか知ってる?」




訊ねられ、沙耶は首を横に振った。

いつかの異常なまでの石垣の潔癖が頭に浮かぶ。



「母親が亡くなった場所っていうのも理由のひとつだけど、それ以外に―諒はあそこで殺されかけてる。使用人のひとりにね。」



「―!?」




「昔からの勢力争いの結果だ。恨みによる犯行だった。確か毒を盛られたんじゃなかったかな。だから、諒はあそこで出されたものには一切手を触れないし口を付けない。大体石垣家と佐伯家は仲が悪かったし、娘―諒の母親が亡くなったのも、石垣家のせいだと思っている。」



すらすら淀みなく出てくる言葉は、嘉納がそれを別段珍しいことだと思っていないと主張しているようだった。



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