シンデレラは硝子の靴を
「どうして―言わなかったんですか。」
病室を後にし、駐車場へ向かう際。
坂月は前を歩く諒を呼び止める。
「何を?」
惚けた答えに、苛立ちが増した。
短時間しか許されなかった面会で、てっきり巌に報告するものと思っていた自分の背信行為を、諒は一切話題にしなかった。
「ふざけないでくださ…」
「お前こそ―」
振り返った諒と目が合って、言葉に詰まる。
「言ってやれば良かったのに。そしたら止めが刺せたろ。」
「っ、何を―」
「とにかく、今は、こっちの問題は後回しだ。」
―後回し?
窮地に立たされているのはそっちだというのに。
自然と坂月の眉間に皺が寄った。
「楓」
「!?」
久しぶりに下の名前で呼ばれて、坂月は目を剥く。
いつも、自分とお前とは違うんだと言われているようだったのに。
「あと一回だけ、力を貸してくれねぇ?」
唐突な要求に、眉間の皺が更に深くなる。
「どういう意味ですか?」
「俺はさ、あいつの奪われたもんだけは、奪い返してやりたいんだ。」
夕陽を背中に受けて、諒は坂月に言った。
「その地位は、その為だけに必要だっただけなんだ。」
コートが風に棚引く。