シンデレラは硝子の靴を
「―?」
店内に野菜を運び入れていると、ふと香る知った匂いにはたとなった。
『それ』がどこにあるのか、と見回し。
必然的に、胸がぎゅっと締め付けられた。
「今日入ってきたの。ハウス栽培の百合。」
その様子を見ていた店主が、きれいでしょ?と笑って店先を指差す。
花の香りは、嫌だなと思う。
どんなに考えないようにしていても、その香りで無意識に記憶を遡ろうとする。
「本当に、綺麗ですね。」
沙耶はかろうじてにこりと笑んで見せてから、目を背けた。
振り払わなければ浮かんできてしまいそうな痛みから、少しでも逃れたかった。
思いが言葉にならないよう、目の前の作業に集中する。
「沙耶ちゃん、休憩しようか?」
朝の忙しい時間帯を抜けると、一旦店は落ち着く。
「あ、はーい。ありがとうございます、今行きます。」
店頭で空になったブースの片付けをしていた沙耶は、声を掛けられて、立ち上がった。
沙耶の事を孫のように可愛がってくれているこの店の女主人は、いつも軽食を準備してくれている。
今日のおにぎりの具はなんだろうと予想しながら、店に入ろうとすると。