シンデレラは硝子の靴を
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数ヶ月前に来た時には、入ることすら、許されなかった門。
その門を、沙耶は今、一人で見上げていた。
幼い頃から一度も持たせてもらえたことのない鍵。
それを持つ手が、微かに震えている。
―『どういうことですか』
差込口に鍵を差しながら、沙耶は廣井との会話を思い返していた。
『少し前になりますが石垣グループが、秋元財閥に対して敵対的TOBを仕掛けたんです。これによって経営陣を根こそぎ追い出して、何をするのかと思ったら―秋元家の長男の娘に当たる貴女に、全権を譲ると、こういう訳です。』
懐かしいが、苦い思い出の家は、誰も居ないらしく、ひっそりとしている。
沙耶はゆっくり、中へ足を踏み入れた。
夢でも見ているかのような気持ちで、父と母と駿と、4人で暮らした頃に思いを馳せる。
最初は、庭を歩く。
次に、自分達が幼い頃に過ごした場所を。
それから、一度も入ったことのない、本家の中枢部分。
さすがに、気が引けて、トクントクンと速さを増す心音に、逆らうことができない。