シンデレラは硝子の靴を

「ごめん、不法侵入。」



黒いコートのポケットに手を突っ込んで立ち尽くしていた石垣は、静かに笑った。




その笑い方が何とも言えず切なくて、沙耶の胸は苦しくなる。




「何て顔してんだよ。」




泣いてたら話せない、と思うのに、沙耶の涙は止まる気配がない。



石垣はそんな沙耶の涙を拭おうと手を伸ばしかけるが、直ぐに引っ込めた。





「…もう行くから。」





葉っぱが転がる音がする。

沙耶は待って、と言おうと口を開くが。




「笑えよ。」


「―?」



涙でいっぱいになった目を、沙耶は石垣に向ける。



石垣自身、泣きそうな顔をしていて。





「今直ぐじゃなくて良い。でも、大丈夫になったら、ちゃんと笑えよ。」




そう呟き、腕時計に目を落とすと、身を翻した。




―待って。




瞬間。




「!」




沙耶の手は、咄嗟に石垣のコートを掴んでいた。


石垣の動きが、止まる。





「―そ、そのままで…聞いて…」




沙耶は涙につっかえつっかえ、言葉を紡ぐ。


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