シンデレラは硝子の靴を
「あっ、秋元さん…」



看護師の一人が気付き、上擦ったような声で沙耶を見る。



「?母の顔、見てきても良いですか?」



「…勿論」



明らかに看護師達の様子がおかしかったけれど、構う事無く紗苗(さなえ)の病室へと向かった。



コンコン。




「はーい」



軽いノックをすれば、紗苗の間延びしたような声が聞こえる。



大部屋がちょうど空いていなかった為、ラッキーなことに紗苗は個室だった。



「気分はどう?」




肩まである髪を、一つに結わえて横から垂らしている紗苗に、沙耶は開口一番訊ねた。



紗苗は水色のカーディガンを羽織って、ふわりと微笑む。




「今日は良いわ。着替え持ってきてくれたのね、ありがとう。」



天気が良く、風も穏やかなので、窓が少しだけ開いていた。



沙耶は持ってきた荷物を傍にあった棚に置くと、先に置かれていたらしい花束に気付く。



「何、コレ。誰か来たの?」



紗苗のお見舞いにくる人間など居ただろうか。

現にこの1年、ここに花が置かれていたことなどほとんどない。

あったとしても沙耶が公園などで摘んでくる程度だ。
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