シンデレラは硝子の靴を
「ああそれ。そうそう、たった今さっき。。沙耶の知り合いなんでしょう?ええと、どなただったかしら。男の方で、名前は忘れてしまったけど…綺麗な栗色の髪の…」
「栗色?」
紗苗のとぼけた声に、沙耶は無意識に視線が鋭くなる。
「前髪上げてた?下ろしてた?」
「えぇ?ちょっとわからないけどねぇ…」
元々おっとりした性格の紗苗は、沙耶の変化になど気付かない。
「まぁ、いいわ。何の用だったの?」
「うーん、と。純粋に私のこと心配してきてくれてたみたいだけど…。沙耶によろしくって…」
沙耶の眉間の皺がますます深くなった。
―おかしい。どっちにしたって、あいつらがそんな事の為だけに来るわけない。まして、お母さんのことなんて知りもしないのに。
「―そっか。お花、花瓶に生けてくるね。」
沙耶は取り繕うように笑顔を作って、病室を出た。
「秋元さん。」
ちょうど、花瓶に水を張って出た所で、看護師に名前を呼ばれ、沙耶ははっとした。
「あ、いつも、母がお世話になっています。」
小さくお辞儀すると、看護師も恐縮したように首を振って頭を下げた。
「少し、時間いいですか?」
「え?」
困ったような顔をする看護師に、沙耶は首を傾げた。
「お話しておきたいことが、あります。そんなに、お時間取らせませんから。」
呆けた顔をしていた沙耶も慌てて頷く。
看護師達の様子が最初からおかしかったことや、石垣等が母を訪ねてきたという事実が頭を掠める。
嫌な予感がした。