シンデレラは硝子の靴を
金なんかに負けたくないし、むしろあんな男と一緒に仕事なんてすごく嫌だ。
しかし、権力というものは沙耶の職を潰すだけの力があるわけで。
脳裏に、母の顔と弟の顔が浮かぶ。
今の所沙耶の未来はノープラン。
何も見えない。
「お願いします!人助けだと思って、ここは、引き受けていただけないでしょうか?」
目の前では、坂月が再び頭を下げている。
多分、沙耶がうんと言わない限り、こうしたやりとりはエンドレスなのではないかと思う。
大嫌いな金持ちの下で働くなんて、反吐が出そうだけど。
「―げ、限界だったら、直ぐに辞めますよ…」
「!はい!」
眉間に皺を寄せて呟けば、壱万円札、ではなく、坂月の勢い良く上げた顔が明るくなった。
反対に沙耶は深い溜め息を吐く。
―仕方が無い。
背に腹は変えられない。
とりあえず、当面の生活のために、あいつと向き合うか。
そして、沙耶が適役ではないことさえわかれば、解放される日も近いのではないか。
「分かりました。刺し違える覚悟で、やってみます…」
「え?!」
沙耶の苦渋に満ちた表情と、殺伐とした言葉に、坂月が驚く声が部屋に響いた。
秋元沙耶、二十歳。
無職。
非常に不本意ではありますが。
明日から、悪の巣窟入ります。