シンデレラは硝子の靴を
「げ。」



直ぐ。


いつか見たでかいロールスロイスのお出迎えに気付き、沙耶は軽い眩暈に襲われた。




「おはようございます、秋元さん。」




秋らしいベージュのトレンチを羽織った坂月が、階段下でにこやかに挨拶する。





「……送迎、要らないって言いましたよね…?」






沙耶はそんな坂月をげんなりした顔で見つめた。





昨日、沙耶は石垣の秘書になることに決めた。


その後の坂月の俊敏な動きといったら。



直ぐに一週間分の沙耶のサイズに合わせたスーツとヒールを持ってこさせて、その中には、秋物用のコートも3着くらい混ざっていた。




―読めない人。



外面は良い人そうなのだが、坂月の考えていることはイマイチ、わからない。


秘書の件に関しても、沙耶が嫌がるとはいえ、最後には渋々承諾することを、坂月はわかっていたのではないか。


そういう風に、考えてしまう。





「記念すべき初出勤なんですから、遠慮なさらず。」





階段を下りたところで、笑みを絶やす事の無い坂月がしゃあしゃあと言うので、沙耶はぎっと睨みつけた。





「記念も何も…不幸更新記念ですか?」




「秋元さん、スーツ良く似合ってます。」




「・・・」




やはり策士だと思う沙耶だった。





数歩先では、運転手が後部座席のドアを開けて待っている。





< 98 / 416 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop