シンデレラは硝子の靴を
「…本当に乗らなくちゃいけないんですか?」
―すごい、嫌だ。
悪足掻きとわかっていても、もう一度訊ねずにはいられなかった。
「だって、秋元さん、石垣の家、知らないでしょう?」
―そりゃそうだけど!
目立ち過ぎる車体を前に、沙耶は羞恥心と葛藤する。
まだ時間帯が早い為、人通りが少ないのが唯一の救いだ。
人生で二回もこんな車に乗るなんて、誰が予想できただろう。
「私も、石垣の家まで行ったら、自分の車に乗り換えて社に向かいますので。」
「そんなこと訊いてません!」
なんでもないことかのように言う坂月が憎たらしくて仕方ない沙耶。
―そりゃぁ、あんたは乗り慣れてるんだろうけど!私にとったら恥でしかないよ!
「あ、もしかして、助手席の方が良かったですか?仕方ないですねぇ、特別に前にしてあげますね。」
坂月はそう言って、助手席のドアを開けた。
―お門違い過ぎる上に、前の方が余計目立つ!
「いいえっ、何でもありませんっ、後ろでお願いしますっ!!!」
沙耶は苛々しながら、坂月を睨みつけ、さっさと後部座席に乗り込んだ。
「え、そうですか?ん?なんですか?」
後ろのドアを閉めた運転手に、じとっとした視線を送られた坂月は、首を傾げるが。
「あ、と、いけない。急がなくては。」
腕時計の時間に気付くと、慌てて助手席に乗り込んだ。