「幽霊なんて怖くないッ!!」
薄暮さんは胸の辺りに手を置き、空を見上げた。
カゲロウを必ず倒す。 必ず仲間の敵を討つ。 その強い思いが、薄暮さんの体を動かしているんだ……。
……薄暮さんは、やっぱり凄いよ。
怖いはずなのに、その怖さを物ともせずに進んでいる。
……この人は、カゲロウを倒すことに全てを懸けているんだ。
全てを……自分の、命を……。
「……薄暮さん、あの……」
「そろそろ戻りましょうか。 双子のことを秋さんとオサキに任しっぱなしには出来ませんから」
「あ……はい……」
……手と手を繋いだ直後、私と薄暮さんは瞬間移動によって一瞬で八峠さんの家へと戻ってきた。
薄暮さんは『双子のところに戻ります』と言ったあと すぐに姿を消し……私は一人、玄関先で小さく息を吐く。
「……何も言えなかったな……。 ううん、なんて言えばいいかさえも、わからなかった……」
命を懸けて戦うと決意した薄暮さんに、どんな言葉をかければいいか わからなかった。
『命を大切に』?
『無茶しないで』?
『死なないで』?
……どれも薄っぺらいし、逃げてばっかりの私が言うセリフじゃない。
ううん、逃げるとか逃げないとか関係無しに、私の言葉なんて届かない。
長い年月の中で決意した薄暮さんにかけられる言葉なんて、私は持っていない……。
「よう、戻ったか」
「あ、八峠さん……」
ガチャリ、と開かれたドアのところに立つ八峠さん。
私と薄暮さんが一緒だったことを、ちゃんとわかっているみたい。
「ハクは双子のところに戻ったのか?」
「はい」
「そうか」
そんな短いやり取りの中で、八峠さんは中へ入るようにと視線で促す。
私はそれに従い、家の中へと再び入った。