「幽霊なんて怖くないッ!!」


幽霊のことも、そうじゃないことも、私は逃げてばっかりだ。

八峠さんに『面倒』と言われてしまったけれど、まさにその通り……私は面倒な女だ。


服とか下着を持ってきてもらうのなんて、少し我慢すればいいだけなのにな……。




「……面倒な奴で、本当にごめんなさい」

「と言いつつ、このあともどうせずっと面倒なんだろ?」

「……すみません」


「まぁでも、面倒を承知でやってるのは俺だから、最後までちゃんと面倒見るよ」

「え……?」




ニコッと笑った八峠さんが、ポンポンと私の頭を叩いた。




「ていうか、頼まれていなかったとしても、俺はお前のことは助けるよ。
『カゲロウの血』を奪われるわけにはいかない。 カゲロウの好きにはさせねぇよ」

「八峠さん……」

「まぁ、アレだ。 お前が面倒だろうが面倒じゃなかろうが、俺は俺のやるべきことをやるだけなんだよ。
だから あんまり謝る必要はねぇよ? つーか、お前をここに置いてるのは俺の勝手な都合だし、お前んちの結界を解除したのも俺だ。
むしろ俺の方が迷惑かけてるんじゃねぇか? って思うぞ?」




八峠さんはいたずらっ子のようにニシシッと笑い、私の髪を撫でる。

とても子供っぽい顔をしてるのに、彼の言葉は優しくて、あったかい。




「さっきも言っただろ? お前のそばには俺が居る。 この先どうなっていくかはわかんねぇけど、それは絶対変わらないよ」




それはまるで、愛の告白のような……強い想いが込められた、ぬくもりのある温かな言葉だった。

ドキ、ドキ、ドキ……心臓の動きが段々と速くなっていく。


私……自分では何も出来なくて、逃げてばっかりで、八峠さんに迷惑をかけてばっかりなのに……。

なのに、それでも八峠さんは、私のそばに居てくれる……。




(……私も、動かなくちゃいけない……)




自分に出来ることを、精一杯に。

怖くても前へ、前へ……。







「……私、囮になります。 八峠さんの力になりたいです」




私に出来るのは、逃げることだけ。

それを生かしていくために、囮になる。


私の出来ることを精一杯にやる。 それだけだ。


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