「幽霊なんて怖くないッ!!」
………
……
…
部屋の隅に腰を下ろした八峠さんは、天井を見つめながら深く息を吐き出した。
「……ごめんなさい。 私のせいで、怪我を……」
「あぁ、散々な1日だよ」
「すみません……」
隣の部屋にあった救急箱を持ってきた私は、八峠さんの腕の怪我の治療にあたっていた。
……と言っても、傷口を消毒してガーゼで押さえて包帯を巻く。くらいしか出来ないけどね……。
「あの……アレって、なんだったんですか?」
「カゲロウの使い魔だよ。 そのうちまた来るんじゃねぇか?」
「……アレは、オサキじゃないんですよね……?」
「違うよ。 アレはお前を油断させるために姿を変えてただけ。
現にお前、オサキだと思ってあっさり近づいただろ? 向こうからすれば、そこが狙い目なわけだ」
……私には普段と同じオサキに見えていた。
でも、本当は違う……。
八峠さんは、ニセモノだと最初からわかっていたみたい。
「……私、ずっとオサキと一緒に居たのに、ニセモノだって わからなかった……」
「オサキはオサキでそれ以外は無い。と、そう思い込んでるからだよ」
「……八峠さんは、初めから疑ってた?」
「あぁ、ホンモノとしての証拠が見つかるまでは疑う。 ハクや秋が来た時も、まずは疑ってかかるよ」
……私は、一度も疑ったことはない。
八峠さんは八峠さんだし、薄暮さんは薄暮さん。 秋さんは秋さんだし、オサキはオサキ。
それ以外は無いと思っていたけれど、でもその考え方は、凄く危険なことだったんだ……。
「……さっき家に来た薄暮さんがホンモノじゃなかったら、私はとっくに殺されてますね」
「あぁ、そうだな。 ……だが、油断してたのはお前だけじゃなくて俺も同じだよ」
「え……?」
「結界の中に居るから安全と思い込んでいた。 だが実際は違う。
結界は幽霊には有効だが、使い魔は簡単に通してしまった。 恐らくオサキも簡単に入れるはずだ。
……カゲロウは俺たちの行動を観察している。 俺たちを、確実に殺すために」