「幽霊なんて怖くないッ!!」
「……殺(や)られる前に殺る。 私も、八峠さんと一緒に動きます」
私に出来ることなんてほとんど何も無いかもしれないけれど、でも、それでも……──。
「杏」
「……え……?」
──……八峠さんの手が、そっと私の頬に触れる。
とても真剣で、それでいて どこか寂しそうな瞳……そんな目をする彼が、小さく小さく言葉を繋げた。
「俺は相手が誰だろうと躊躇うことはない。 それは『躊躇ったら死ぬ』と わかっているからだ。
お前は、俺と同じように動けるか?」
……八峠さんと同じように……躊躇うことなく……。
「……俺は──」
と、八峠さんが何かを言いかけた時だった。
♪~♪~♪~
八峠さんのズボンのポケットに入っていた携帯が けたたましく音を奏で、私たちの会話は切れる。
「──……ハク、どうした?」
私の頬から手を離した八峠さんは、画面を素早く確認したあと すぐに通話ボタンを押した。
彼の言葉が示してる通り、電話の相手は薄暮さんだ。
電話の向こう側から薄暮さんの声が微かに聞こえてくるけれど、内容まではよくわからない。
「……それで、双子は?」
八峠さんは眉間にシワを寄せ、そのあとにゆっくりと目を閉じた。
……双子……双子に何かあったの……?
「あぁ……あぁ、わかった。 今から行く。
え? あぁ、杏も連れて行くよ。 こっちも色々あって、結界だけじゃ防げない状況になったんだ。
うん、うん……わかってるよ、大丈夫。 じゃああとで」
ハァ……と言う深いため息と共に電話を切り、八峠さんは天井を見上げた。
「双子の家が火事になった。 カゲロウが絡んでるかどうかはまだわからないが、その火事で怪我人が出てしまった」
「……まさか、双子が……?」
私の言葉に、八峠さんはゆっくりと首を横に振った。
「怪我をしたのは秋だ。 双子を助けるために家に入り、大量の煙を吸い込んだらしい。 意識は無く、危険な状態だ」