「幽霊なんて怖くないッ!!」
「……」
……どうしてこんなことになってしまったのだろう。
『カゲロウの血』だから?
それが運命だから、狙われても仕方ない?
……そんなのおかしいよ。
『カゲロウの血』とか、運命とか、そんなのは関係無くて。
人の命っていうのは、人生っていうのは、何よりも大切なものなのに……それを奪っていい権利なんて、誰にも無いはずなのに……。
「……秋さんの命は、カゲロウの身代わりなんかじゃないのに……」
ポロポロと、涙がこぼれ落ちる。
秋さんと過ごしてきた日々が頭の中で鮮明に蘇り、幾度となく見てきた笑顔もまた、鮮明に浮かんだ。
……私は、いつも秋さんに助けられてきた。
逃げることしか出来なくて、いつも秋さんに助けを求めて、神社の石段を駆け上っていた。
そんな私の行動は、凄く迷惑だったかもしれない。 秋さんにとっては、大変な時間だったかもしれない。
でも……それでも秋さんは、いつもいつも、いつだって、笑顔で私を迎えてくれた……。
「……こんなの、ヤダ……」
……秋さんの笑顔は、もう見ることが出来ない。
秋さんの声も、もう聞くことは出来ない……。
「ヤダよ……秋さんが死んじゃったなんて、そんなの……ヤダ……」
秋さんはいつも言っていた。
『『カゲロウの血』は そういう運命なんだよ』って。
……幽霊に狙われ続け、そしていつかは死ぬかもしれない。
それが運命……さだめ……。
「……そんなの、ヤダッ……」
──霊安室を飛び出し、廊下を駆ける。
エレベーターには乗らずに非常階段を駆け上りながら、私は一人で泣き続けていた。