「幽霊なんて怖くないッ!!」


「……今のお前は、俺のお袋に似ている」




ポツリ、八峠さんが言う。




「容姿が、というわけじゃなくて……親父が死んだばかりの頃と、似ているんだ」

「……」

「……大切な人を失って、この先どうすればいいかわからなくなって、苦しくて、ただただ泣いて、逃げて……その時にお袋は、自殺しようとした」




……自殺。

その言葉のあと 八峠さんは私から視線を外し、小さく息を吐き出した。




「まぁ、世に言う『後追い自殺』ってやつだ。 お袋にとって親父は人生のすべてだったわけだし、『カゲロウの血』に相当苦しんでたから……だからそういう行動に出たっていうのは、仕方のないことなのかもしれない」

「……」

「でもな、本当は自殺じゃなくて、カゲロウに操られていて……と言っても、体が奪われたわけじゃなくてさ……その……親父の霊がな、お袋を引きずり込もうとしてたんだ」




とても言いにくそうにしながらも、それでも八峠さんの言葉は続いていく。

自分の家族に何があったかを、言葉を選びながらも、真っ直ぐに……。




「……カゲロウの手によって親父は死に、その魂はカゲロウに奪われ、操られていた。
見た目は親父そのものだけど、それは俺の親父とは違う存在で……操られている他の幽霊と変わらない ただのバケモノだった。 だから……──」

「……八峠さんが、お父さんの霊を……?」

「──……うん」




短い返事のあと、八峠さんはまた小さく息を吐き出した。

私から視線を外している八峠さんが何を思っているのかはわからないけれど、その瞳は凄く悲しそう……。







「……俺が親父の霊を消したあと、正気に戻ったお袋は俺に謝ってきたよ。 『迷惑かけてゴメン』『お父さんの分まで生きようね』って、無理して笑ってた。
ツラい気持ちや悲しい気持ちはあったけど、それでもお袋は前へ進もうとしていたんだ。
弱気になってる人間ってのは、幽霊にとっては最高の餌だ。 お袋はそれがわかっていたから、一生懸命に前へ向かっていた。
でも……結局お袋はカゲロウの手に落ちてしまった」

「……」

「……お袋が死んだ時、お袋の霊も親父と同じように、奴の操り人形になってしまったんだ」


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