「幽霊なんて怖くないッ!!」


……八峠さんはそれ以上を言わなかったけれど、でも、当時 彼が取った行動は想像が出来た。

彼はきっと、お父さんの霊を消した時と同じように、お母さんの霊も……。






「……今のお前は、親父を亡くしたばかりの頃のお袋に似ている。
だから一人になるな。 一人になったらカゲロウの思う壷だ」




ゆっくりと目を閉じ、それを開いた時……八峠さんの瞳にはもう、悲しみは無かった。




「秋はもう居ない。 秋の霊が現れたら、それは敵だ」

「て…き……」

「甘いささやきも優しい笑顔も、全部がニセモノだ。
人間と幽霊は違う。 秋の姿をしていても、ソレは別の存在……バケモノだということを忘れるな」




容赦のない残酷な言葉に、胸がズキンと痛む。

でも……八峠さんの言葉は正しい。


数日前に見た子供の幽霊も、実際は凶悪なものだった。

私が隙を見せたら襲いかかってくる。 ……どんな姿をしていても、カゲロウに操られた霊はみんなバケモノだ。

……だけど……。




「……もしも秋さんが助けを求めていたら……? 操られている中で、もがき苦しんでいたら……?」



……生きていた頃の記憶を持ち、カゲロウに操られながらも苦しんでいたら……。




「……それでも八峠さんは、他の霊を消す時と同じように、無慈悲に秋さんを消すの……?」






胸がズキズキと痛む。

そんな私に、八峠さんは『消すよ』と静かに言った。




「躊躇ったらこちらが死ぬ。 だから俺は躊躇わない。 絶対にだ」




──『お前は、俺と同じように動けるか?』




……八峠さんの家で聞いた言葉が、頭の中に浮かぶ。

アレは、こういう意味だったんだ……。


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