「幽霊なんて怖くないッ!!」


「俺は躊躇わない。 絶対に、立ち止まったりしないっ」




……それはまるで、自分に言い聞かせているようだった。

『躊躇わない』と口に出して言わなければ、動きが止まってしまう……そんな風に見えた。


八峠さんは、苦しみながら戦っている……?






「……クソがっ」




八峠さんの家の前で幽霊と戦った時とは、動きが違う。

彼の動きは、あの時よりも鈍いように見えた。


……カゲロウの使い魔にやられた傷のせい?

秋さんの霊があの時の霊よりも強いから?

階段の踊り場が狭いから? その狭い中で、私を守りながら戦っているから?


それとも、躊躇いながら戦っているから……?



……何が理由なのかはわからない。

だけど、八峠さんの動きは明らかに違っていた。




「……俺は、躊躇わないッ──!!」




……叫び声に近い声と共に、渾身のパンチが繰り出される。

でもそれは秋さんの霊に当たることなく空を切った。




「八峠さんっ!!」




──どす黒い塊となったソレが、八峠さんの体へと侵入を開始した。

このままじゃ八峠さんがやられてしまう。


カゲロウに操られた秋さんの霊によって、引きずり込まれるっ……!!




──『大丈夫。 お前のそばには、俺が居る』


「……っ……八峠さんっ!!」




にっこりと笑った八峠さんの言葉を思い出しながら、私は無我夢中で彼の手を引っ張っていた。


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