「幽霊なんて怖くないッ!!」


……私は、幽霊に触れることは出来ない。

相手は私を殺しに来てるのに、私は戦うことなど出来ず、今までずっと逃げてきた。

さっきだってそう。私はまた、全てから逃げ出した。


でもっ……。




「八峠さんを、離してッ……!!」




……今は逃げない。

戦っている八峠さんを置いて逃げたりしないっ。





「私はっ、幽霊に触れることは出来ないけれどっ……だけど八峠さんの手を掴むことは、出来るからっ……!!
八峠さんの体に、侵入なんて させないからっ……!!」




自分に出来ることを、精一杯に。

彼の手を掴んで、どす黒い塊から少しでも引き離す。

もっと早く、もっと強く。


もっと、もっと……──!!









「大丈夫、あとは僕がやる」

「……っ……」




──……黒い塊の背後に、一人の男性が見えた。

その瞬間、キラリと光る小刀が八峠さんと塊とを引き離す。


塊が離れた反動で壁に激突する私と八峠さんを見つめながら、彼は小さく小さく言葉を放った。




「『躊躇わない』というのは こういうことですよ、八峠さん」




彼は……薄暮さんは、冷たい目をしていた。

そして、彼の声も、彼が纏う空気もまた冷たいものだった。


そんな薄暮さんは私の部屋で幽霊を斬った時と同じように、躊躇いのない滑らかな動きで塊を斬っている。

……悲鳴のような叫び声を上げたソレは、あの時と同じように床にボトボトと落ちたモノから消えていった。


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