「幽霊なんて怖くないッ!!」
……八峠さんは、いつだって前向きだった。
『殺らなきゃ殺られる』、だから『動いて動いて動きまくれ』と私に言っていたけれど、でもそれはカゲロウの話を“知ってしまったから”なんだ。
薄暮さんと出会っていなければ……『カゲロウの血』の真実を知らなければ……。
何も知らないままなら、彼は全てを『仕方ないこと』として受け入れていた。
数日前までの、私や秋さんのように……。
でも全部を知ってしまったから、両親を殺したカゲロウを恨んでいるし、連鎖を止めようと動いていた。
だけど……本当は凄く凄く苦しんできたんだ……。
全てを知ってしまった。 だから自分がやるしかない。
その思いが、八峠さんを苦しめてきた……。
「……俺はもう何もしたくない。 お前のためには動きたくないし、お前の言葉も聞きたくない」
「……」
「カゲロウを殺すなら俺じゃない誰かに頼め。 双子が大きくなってからでもいいし、次に生まれる『カゲロウの血』でもいい。
とにかく、俺にはもう近づくな。 近づかないでくれ」
胸ぐらを掴んでいた手を離し、八峠さんは再び腰を下ろす。
そのあとに私を見て、『悪かったな』と小さく言った。
「俺が霊を引きつけておくから、お前は逃げろ。 これから先の人生はキツいことも多いと思うが、薄暮が居ればなんとかなる。 だから大丈夫だ」
「八峠さん……」
「本当にゴメン」
私の涙を拭って笑う八峠さんは、とても優しい顔をしていた。
普段はイヤな人なのに、今は微笑んでいる……。
……八峠さんは死ぬつもりなんだ。
全部を、諦めるつもりでいるんだ。