「幽霊なんて怖くないッ!!」
「……八峠さんも、神葬式に参加すればよかったのに」
──神葬式の翌日、私は八峠さんの家のソファーの上でそう呟いていた。
隣に座っている八峠さんは、砂糖激盛りのコーヒーを飲んでから私を見る。
「俺はいいんだよ、事前にちゃんと別れを済ませたから」
「……とか言いつつ、親戚の人に囲まれるのがイヤだったんでしょ?」
「まぁ、それもあるな」
……『それもある』じゃなくて『それがイヤ』なんだろうな。と思いながらも、そのことは口に出さずに私もコーヒーを飲む。
もちろん、私のコーヒーは普通の甘さのやつだ。
「……薄暮さんも来ませんでしたよね」
そう聞きながら、薄暮さんのことを思い浮かべる。
彼は現在 双子のそばに居た。
双子の住む家は燃えてしまい、現在 家族は祖父母の家に身を寄せている。
同じ『カゲロウの血』である女性のところに居られるのなら安心だけど、いくら親戚だとしても、さすがにいつまでも厄介になるわけにはいかないもんね。
……と、そんなこんなで。
薄暮さんは今現在 ほとんど双子のそばに居るのだ。
そして私のそばには、八峠さんが居る。
「アイツは20年前も30年前も同じ姿なんだから、出られないのは当たり前だよ。
今は極力姿を隠してるが、昔は『カゲロウの血』を持つ奴と家族ぐるみの付き合いもしてたらしいし。
まぁ、不老不死のことやカゲロウのことは言ってないっぽいけど」
「あー……そっか。 薄暮さんの姿を覚えてる人が居たら、マズいですもんね……」
「『薄暮の息子』と言えば上手いこと行くかもしれんが、根掘り葉掘り聞かれると結局面倒だからな」
……そうだよね。
私が生まれるずっとずっと前から、薄暮さんは今のまま 薄暮さんなんだ。
そして、その分たくさんの『カゲロウの血』の死を見てきたんだ……。
「ところでさ、」
「え?」
カチャリ、コーヒーカップを置いた八峠さんが私の目を真っ直ぐに見てきた。