「幽霊なんて怖くないッ!!」
八峠さんからすれば、今までと同じで『警戒してる中での護衛』なのかもしれない。
でも私は、八峠さんと一緒に過ごせることがとても嬉しかった。
……ていうか、一人の時間が少ない。 ということが嬉しいのかもしれない。
一人になると、やっぱり色々なことを考えてしまう。
秋さんの死に対するどうしようもない悲しみ。
胸の中で秋さんは生き続けているとわかっていても、溢れ出してしまう涙……。
カゲロウに対する恨みつらみ、そして怒り……一人になると色々なモノが抑えきれなくなり、余計にツラくなる。
そのツラい時間が少ないというのは、本当にありがたいことだった。
「なぁ、杏」
窓の外に見える花壇を見つめながら、八峠さんがポツリと言う。
「オサキ、もう戻ってこねーのかな?」
「……戻ってきて欲しいですよね」
「うん」
八峠さんと同じように花壇を見つめ、小さく小さく息を吐き出す。
……オサキは、秋さんが亡くなった日に霊安室で見たのを最後に、姿を消してしまった。
秋さんが亡くなったのを『僕のせい』と言い、『本当にゴメン』と謝ったオサキは、相当責任を感じているはずだ。
だからこそ私たちの前から姿を消したんだと思う。
……私たちと顔を合わせるのが、ツラいから……。
でも、私はオサキに戻ってきて欲しかった。
オサキのことを『大切な友達』だと思っているから、彼のそばに居たかった。
「……アイツ、危険なことをしてなきゃいいけど……」
「……はい」
秋さんの死に責任を感じているオサキは、一人でカゲロウを探しているのかもしれない。
八峠さんや薄暮さんと同じように、敵を討つために動いているのかもしれない。
……だけど、それはとても危険なことだ。
オサキの力は強い。 私なんかよりも断然強い。
でも、カゲロウ相手となったら、きっと彼は手も足も出ずにやられてしまう……。
……もしかしたら、もうカゲロウに……?
「……オサキは、大丈夫ですよね……?」
「あのクソギツネのことだ、きっとそのうち飄々とした様子で戻ってくるだろ」
「……はいっ」
顔は花壇に向けたまま、私の頭をポンポンと叩く八峠さん。
それはまるで『大丈夫だ』と言っているかのようだった。