「幽霊なんて怖くないッ!!」
バッと顔を上げた氷雨くんは、口をパクパクと動かしながら、驚いた顔をしている。
「いやっ……いやいやっ、ちょっと待ってくださいよっ。 不老不死なんてマジでマンガの話じゃないですかっ!!」
「普通の人からすれば、『幽霊が視える』ってのもマンガな設定だって思うんじゃねぇの?」
「そりゃそうかもしれませんけどっ……!!」
「ちなみにハクも不老不死な」
「えぇ!? うっわ、マジでっ!! だからあの力っ!? スゲー!! ヤバい、俺 不老不死の人の弟子っ!!」
「いつ弟子になったんだよ」
……カゲロウが不老不死だということは全然信じてなかったのに、薄暮さんのことを言ったらこの変わりようだ。
目をキラキラ輝かせて、本当に子供みたい。
薄暮さんはどこか困ったように笑っていたけれど、私と八峠さんは、とにかく面倒臭そうな顔をしていた。
「……おいハク、あとはお前が話せ。 コイツと喋ってると疲れるわ」
ハァ、と息を吐いたあと、八峠さんはいつもの甘いコーヒーを口に運んだ。
──その後、薄暮さんはカゲロウのことや不老不死の水のこと、仲間のことなど色々なことを話し、氷雨くんはそれを真剣な顔で聞きながら、仲間の死の話では怒りに肩を震わせていた。
「八峠さんのご両親も『カゲロウの血』だったんです。 二人とも、既に亡くなってしまいましたが……」
「それもカゲロウが?」
「はい。 そして最近亡くなった藤堂 秋さんは、杏さんの大切な人でした」
「……」
八峠さんと私を見た氷雨くんは、下唇を噛みながら悔しそうな顔だった。
その顔は、今にも泣き出してしまいそう。
「……マジで、カゲロウって最悪じゃん……」
「だからこそ殺すんだよ。 ……って言っても、俺たちはカゲロウがどこに居るのかさえ掴めていないんだがな」
八峠さんのその言葉に薄暮さんは目を伏せる。
……きっと、300年前のことを思っているんだ。
あの時にカゲロウを殺していれば、と……。
「……八峠さん。 僕は彼の一族のことを調べてみます」
目を開けた薄暮さんは、いつもと同じように微笑む。
色々なことを思いながらも、それでも彼は前へ進もうとしているんだ。
「八峠さんは、二人を頼みます」
「おう」
「何かあったら連絡してください」
薄暮さんは氷雨くんに家の住所を聞いたあと、一瞬にして姿を消した。