「幽霊なんて怖くないッ!!」
「……薄暮さんって、マジで凄いな……」
ポツリと言った氷雨くんは、薄暮さんの居た場所を見つめながらため息を漏らす。
そんな彼に、八峠さんは『うん』とだけ返し、そのあとは何も言わなかった。
八峠さんも氷雨くんも私も、それぞれがどこかをぼんやりと見つめながらそこに居る。
何か話した方がいいのかな?と思うけれど、何も言葉が見つからない。
コーヒーを飲む八峠さんはどこか寂しそうで、薄暮さんの居た場所を見ていた氷雨くんも、今はまた床へと視線を戻していた。
私はそんな二人をチラリと見たあとに、視線を僅かに落とす。
とても静かな部屋の中で、八峠さんが小さなため息をついた。
「カゲロウが狙ってるのは、子孫である俺たち『カゲロウの血』だけだと思っていた。
だが、もしもお前の一族を狙っているのもカゲロウだったら……俺たちの一族とは全く関係の無いお前らが、狙われているとしたら……」
「狙われてる理由がハッキリとわかれば なんとなくは納得しますけど、何も無いのに狙われていたら、相当 厄介なことになりますね」
「……あぁ、相当 厄介だ」
二人の表情は固く、重苦しい。
だけど私には、『厄介』になる理由がいまいちわからなかった。
「……あの、どうして『厄介』に? 守る対象が増えるからですか?」
その言葉に、八峠さんは首を横に振る。
「俺たちは奴の子孫だろ? 薄まっているとしても奴の血が混じっているのは確かなことだ。 だからこそ俺たちは奴の身代わりとして狙われている」
「はい」
「だが氷雨は違う。氷雨の一族は奴の血とは関係無いのに狙われ、おそらく俺たち同様に身代わりにされてきたんだ。
……つまり、カゲロウは“誰にでも”呪いを振りまくことが出来るということだ」