「幽霊なんて怖くないッ!!」


穏やかで、優しくて、温かな声。

その顔もまた、とても優しかった。




「部屋に戻るよ。 じゃあな」

「あ……お、おやすみなさいっ……」

「おう」




立ち上がった八峠さんは、ひらひらと手を振りながらドアへと向かう。

そして、ドアを半分開いた時に私を見た。




「じゃあ、また明日」

「……はいっ」




ニコッと笑った八峠さんは、もう一度 手を振ったあと部屋を出ていった。




ドキ、ドキ、ドキ。

今頃になって、鼓動が速まってきた。


……私、八峠さんに抱き締められてしまった。

“あの”八峠さんが、私を抱き締めて『ありがとう』って言ったんだ。




「……どうしよう。 なんか、すっごく優しかった……」




さっきの八峠さんは、いつもの八峠さんとは全然違っていた。

ビックリするくらい優しくて、温かくて、穏やかで、まるで別人みたい……。




「……ありがとう、だって」




しかも2回も言われた。

私は別に何もしてないのに、それでも『ありがとう』と言われてしまった。




「……ほんっとに、ズルい人……」




……私、また勘違いしちゃうじゃん。


八峠さんは親戚のおじさん。 一緒に住んでいるけれど、ただの同居人。

そう思っているのにドキドキは止まらなくて、増すばかり。


……ドキドキする必要なんて無いのに、なんで私、ドキドキしちゃってるのかな……。




「……私と八峠さんは、『カゲロウの血』っていう共通点があるだけだよね」




それ以外には無い。

あるわけが無い。


そんな風に自分に言い聞かせながら、ゆっくりと息を吐く。





「うん。 ドキドキする必要無しっ。 おやすみなさい八峠さん。 そして、また明日っ」




そんな風に言ったあと部屋の電気を消し、勢いよくベッドに横になった。


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