「幽霊なんて怖くないッ!!」


「……」

「……」




さっきまで笑い合っていた私たちの会話が途切れる。

私は、秋さんのことを想いながら小さく小さく息を吐いた。




「……みんなと色々なことを話して 笑って過ごしていても、やっぱり寂しいですね」




秋さんが隣に居てくれたら。 隣で笑ってくれていたら。 と、ふとした瞬間にそう思ってしまって、胸が痛くなる。

もっと一緒に過ごしていたかった。 一緒に過ごしていけると思っていた。

でも、もう秋さんは居ない。 戻ってくることはない。


会いたいけれど、会うことは出来ない……。




「……ダメだなぁ、私。 雨音さんを見習おうって言ったそばから、もう後ろ向きになっちゃってるや」

「……」

「ごめんなさい、帰りましょっ。 あぁそうだ、薄暮さんにもミカンを……──」


「杏、ちょっと止まった方がいい」

「──……え?」

「空気が重い。 何か変だ」




……空気が重い?

私は全然 何も感じていないのに、八峠さんには何かが視えている……?





「殺気……だと思うけど、方向が掴めない。 いや、コレは……1体じゃなく複数か?」




ブツブツと独り言のように言いながら、あちらこちらへと視線を動かしていく八峠さん。

そして、ミカンの入った袋を私に預けたあと、彼は静かに言葉を続けた。




「100以上の幽霊が俺たちを囲んでる。 まだ距離があるから今すぐどうこうなるわけじゃないけど、このままじゃ俺たちはいずれ死ぬだろうよ」

「……カゲロウ、ですか……?」

「そうだと思う。 ここ最近襲撃が無かったのは、コレをするために力を溜めてたのかもしれねぇな。
ったく、たかが人間二人に100体以上をぶつけてくるなんて、何考えてんだか」




どこか呆れたように言いながら、八峠さんは私の周りに結界を張った。

……今、私の存在は『無』だ。


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