「幽霊なんて怖くないッ!!」
幽霊たちは結界に阻まれ、私たちに近づくことは出来ない。
侵入しようとして結界に触れた幽霊は、おぞましい雄叫びを上げながら消滅していった。
八峠さん曰く、『強力な結界だから触ったら死ぬ』のだとか。
もちろん、生きている人間……私たちに害は無い。
今 リビングを包んでいるソレは身を隠すためだけじゃなく、幽霊を倒すための結界なのだ。
「……相変わらずハクとは連絡がつかない、か」
ソファーに座った八峠さんは、携帯を耳にあてながら小さく息を吐き出した。
……薄暮さんの携帯は、電源が切られているらしい。
それは川沿いの道に居た時から、だ。
あの時、八峠さんの電話はやけに早く終わっていた。
それは薄暮さんに繋がらなかったからだったんだ。
「……薄暮さんも、襲われている……?」
「わかんねぇけど、アイツが電源を切るなんてことは今まで一度も無かった。 何かあったのは事実だろうな」
……何かがあった。
何があったのかは わからないけれど、何かはあったのだ。
「これから、どうすればいいんでしょうか……」
「とりあえずは現状維持。 ハクと連絡がつかなきゃどうしようもねぇよ」
「……」
「悪いが少し寝る。 侵入されることはねぇと思うけど、何かあったらすぐ起こせ」
「……わかりました」
複数の幽霊を倒してきた八峠さんは、力を消耗している。
見た目はいつもと変わらないけれど、相当疲れているのは間違いない。
彼はソファーにゴロンと横になって目を閉じると、すぐに寝息を立て始めた。
そんな彼を見つめながら、私は薄暮さんへと電話をかけてみる。
……けれど、やっぱり薄暮さんの携帯は電源が切られたままだった。