「幽霊なんて怖くないッ!!」
「すぐタオルを用意するねっ。 確か段ボールの中にあったはずっ」
「ありがと。 八峠さんは眠ったばかり?」
「うん、ついさっき。 あ、薄暮さんが来たことを知らせなきゃっ」
「あぁいや、このまま寝かせておこう。 というか相当消耗してるみたいだから、しばらくは起きないと思う」
「あー……そっか……そうだよね」
「うん」
……『何かあったらすぐ起こせ』って言ってたくせに。 と思いながらも、一方では『仕方ない』と思っている。
だって八峠さんは、家に到着するまでの間 多くの霊を一人で消してきたから。
今までに無いくらい、たくさんの霊と戦ってきたのだ。
だから仕方ない。 ううん、当然のことだ。
「双子は、ミカさんのところへ?」
「うん、ミカさんと一緒に神社に居る。 秋さんのお父さんに事情を話して匿ってもらっているよ」
「そっか、よかった……」
鳥居の中に居るのなら安心だ。
大丈夫。 カゲロウが強い力の持ち主だとしても、神社を包んでいる結界が破られるはずが無い。
「はい、タオル」
「ありがと」
水の滴る髪をかき上げた薄暮さんに、段ボールから取り出したバスタオル数枚を渡す。
薄暮さんはある程度の水分を取ると『着替えてくるね』と言って部屋を出ていった。
その間に、私は濡れてしまった床を拭くことにした。
「……よかった。 薄暮さんが無事で、本当によかった」
連絡がつかなかった時は不安でいっぱいだったけれど、彼の姿を見たら不安は一気に無くなったし、心強くもなった。
本当に無事でよかった。 戻ってきてくれて、本当によかった。
「あ、そうだ……氷雨くんは大丈夫かな?」