「幽霊なんて怖くないッ!!」
………
……
…
その後、服を着替えてきた薄暮さんは『家 全体に結界を張ったよ』と報告したのち、ソファーの上で眠る八峠さんにそっと毛布をかけた。
「僕は外の掃除をしてくるから、杏さんは彼のそばに居て」
「あ、うんっ」
外の掃除……それはつまり、幽霊たちを消してくる。という意味だ。
いつもスーツ姿の薄暮さんは、今もまたスーツ。
いったい何着持ってるんだろう……。
「薄暮さんはいつもスーツだから、スーツ以外の物を着た姿って 想像が出来ないね」
そんな風に言った私を見て、薄暮さんはクスッと笑みを漏らした。
「本当は和服の方が好きだけど、今の時代だと目立つだろう? だからスーツなんだよ」
「……あ、なるほど」
「それに、スーツ姿も結構気に入ってるんだ」
その言葉を放ったあと、薄暮さんは微笑みと共に一瞬で姿を消した。
……そっか、薄暮さんは和服が好きなんだ。
でも今の時代、和服姿というのは結構目立つもんね。
だからこそスーツなんだ。 サラリーマンはみんなスーツ姿だから、薄暮さん一人が目立つことは無い。
その時代ごとに、一番馴染む格好をしているんだ。
「……いつか、和服姿の薄暮さんも見てみたいな」
上手く想像は出来ないけれど、でもきっと似合う。
スーツ以上に似合う。……はず。
「……あ、今更だけど、何百年も生きてきてるってことは……薄暮さんもマゲを結ってた時代があるんだよね……」
江戸時代とか、マゲを結ってることが普通だったんだよね、多分。
チョンマゲ姿の、薄暮さん……。
(……いや、コレは想像しないでおこう……)
そんなことを思いながら、苦笑い。
ふと見た窓の外では、花壇の花がいつもと同じようにそよそよと風に揺れていた。