「幽霊なんて怖くないッ!!」
「幽霊というのは、恐ろしい面だけではありません。
いいえ、恐ろしい面というのはごく一部に過ぎないのです」
お札を持つ私に、塊は近づいてこない。
私の周りをグルグルと回っていたけれど、すぐに標的を薄暮さんへと切り替えた。
「薄暮さんっ……!!」
「大丈夫です。 僕は死にませんので」
私に微笑む薄暮さんの体に、黒い塊が……。
「凶暴化してる幽霊は、『凶暴にさせられている』んです。
凶暴に動く原因を突き止め、それを無くしてやる。 そうすると、巻き込まれた者たちは自然と散っていくんです」
「……っ……」
……塊に体を乗っ取られそうになっているのに、それでも彼は笑っている。
ううん、乗っ取られそうになっていると私が勝手に思っているだけで、実際は全然違うのかもしれない。
薄暮さんの力は幽霊に勝っている。
だからこそ、彼は笑っているのかもしれない。
「今回の原因は、コレです」
心臓の辺りに手を置き、そして……まるでそこから心臓を取り出すかのように、黒い小さな塊を取り出した。
光沢のある黒い塊は弾力があるようで、ふるふると揺れている。
「無害な霊にコレが仕込まれ、凶暴化させられていたようです」
「何体巻き込まれてた?」
「8体です。 その中の6体は既に天上へ。 残り2体も、今 逝きます」
──キラキラとした粒子が、薄暮さんの周りを漂っている。
それが少しずつ上へと向かっていき……静かに消えた。
『天上』……それはつまり、霊たちが成仏したということだろうか?
どこか重苦しかった空気が、今は軽くなった気がする。
そして、あとに残されているのは薄暮さんが持つ黒い塊だけだった。