「幽霊なんて怖くないッ!!」
「俺を覚えていないのか?」
「……」
壁に寄りかかって座っている男は、肩ほどまであるサラサラの銀髪を ゆっくりとかき上げながら笑みを見せた。
「前もこの部屋だったな。 今日はお前に話があるんだ、札を投げつけるのはやめてくれよ?」
……目の前の男の言葉で確信する。
コイツはカゲロウの使い魔だ。
「警戒するな。 俺はもうお前を殺そうとは思っていないさ」
「……次は殺す と言ったのはアンタだろう? それをあっさり覆すのか?」
「じゃあこう言おう。 俺にはもうお前を殺せるほど力は残っていない。 俺の命は、もって半時だ」
半時……1時間で、コイツは死ぬ……?
「残りの時間でお前に伝えなくてはいけないことがある。
時間が無いんだ、口を挟まずに聞いてくれ」
そう言った使い魔は、腹部を押さえながら苦しそうな顔をした。
よく見ると和服に血が滲んでいる。
……ハクの強い結界を抜けてきた代償だろうか? それとも、ここに来る前に怪我を……?
「お前……」
「口を挟むな、と言ったばかりだぞ?」
「……」
「そう、それでいい。 お前は俺の話を聞いているだけでいいんだ」
苦しそうな笑みを浮かべた使い魔は、天井を見上げながら静かに言った。
「俺と陽炎(カゲロウ)は もう300年以上も前からの付き合いだ。
俺は陽炎のために動き、陽炎のために多くの人間を殺して回り、陽炎に力を与え続けていた。
……陽炎はな、雪(ユキ)という女のために力を必要としていたんだよ」