「幽霊なんて怖くないッ!!」


……使い魔の言葉の意味がよくわからない。

正確には、後半部分がわからない。


『カゲロウの血』を殺していた理由は、自分の身代わりのためじゃなかったのか……?




「──300年前の戦いの時、俺は死にかけた陽炎を連れて逃げ、そのまま数年間 身を隠していたんだ」

「……」

「体の傷は徐々に回復していったが、力は3割ほどしか戻っていない。 そんな状態の時に出会ったのが雪だった」




天井を見上げる使い魔は、300年前のことを思い出しているんだろうか。

懐かしそうに目を細め、微笑んでいる。




「雪は陽炎に水を与え、食事を与え、身の回りの世話をすべて引き受けてくれた。
見ず知らずの人間に何故そこまでするのかと問うと、彼女は『一目惚れだよ』と微笑んでいたな。
健気に尽くす彼女に 陽炎は当たり前のように惹かれていった。 だが、見た目は同じ人間でも二人は全く別の存在だ。
陽炎は自分が不老不死だということを明かし、呪術によって多くの人間を殺してきたことも告白して、彼女の前から去ろうとしたんだ」

「……だけど、ユキは今もカゲロウのそばに居るんだよな……?」

「あぁ、その通り。 雪は陽炎の過去を受け止め、共に生きる道を選んだんだ。
過去を変えることは出来ない。 だが未来は違うだろう? ……未来は道を選べる。 人を殺さずに生きていく道を二人は選んだんだよ」




……でも、『カゲロウの血』は殺され続けている。

俺たちだけじゃない。 氷雨の一族だって、ずっとずっと狙われ続けているじゃないか。


使い魔の言う『人を殺さずに生きていく道』とは、全然違うだろ……。


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