「幽霊なんて怖くないッ!!」
「……お前、飛ぶなら飛ぶって先に言えよ」
「言っただろう? 俺が連れていく、と」
「その直後に飛ぶのは無しだろ。 くっそ、札と警棒しか持ってこなかったじゃねぇか」
ハクに連絡するのに、せめて携帯くらいは持ってきたかったのに……。
と思ったけれど、こんな山奥じゃ通じないか。
だが、事前に連絡はしておきたかったな……。
「イツキ、もう一度飛べるか?」
「……いや、お前を連れて飛ぶのは無理だ」
「つまり、イツキ一人なら飛べるってことだな?
よし、じゃあ街へ戻って俺の居場所をハクに伝えてこい。 アイツは今、お前を吹っ飛ばした女のところに居るはずだから」
「……人使いの荒い奴だな」
「てめぇは人じゃねぇだろ?」
ニッと笑った俺に、イツキはどこか呆れたような顔だ。
それでも、その次には微かな笑みを浮かべ、髪を軽くかき上げた。
「彼女には何も伝えなくていいのか?」
「あ?」
「双葉 杏だよ。 お前、彼女に惚れているだろう?」
「……そんなんじゃねぇよ。 俺はただ、アイツの笑顔を守りたいだけなんだ」
杏を泣かせたくない。 杏の笑った顔を見ていたい。
だから守るんだ。 だからこそ戦うんだ。
「……アイツに伝えることなんか何もねぇよ、さっさと行け」
「そうか。 『愛してる』と伝えておくよ」
「はぁ!? ふざけんなっ!! おい、イツキッ……!!」
……くっそ、逃げられたっ!!
あの野郎、ニヤニヤ笑いやがって。
「……俺と杏は そんなんじゃねぇっつーの」
そう呟いたけれど、イツキに届くことはない。
イツキはきっともう街に着いていて、ハクたちに話をしてる最中だ。
……『愛してる』っつーのは、言ってないことを願おう。
「……さて、これからどうするかな」
ふっ、と息を吐き出したあと、小屋を見る。