「幽霊なんて怖くないッ!!」

共に。



【杏side】


………

……




シーンと静まり返る室内。

重苦しい空気。


暴走するだろうカゲロウに対する恐怖、不安、そして緊張……。

その場に居るそれぞれが、色々な思いを抱えながら口を閉ざしている。


そんな場所に、『彼』は現れた。








「……薄暮 一縷……オサキも、居るな……」




そう言って笑ったのは、肩ほどまである銀色の髪をなびかせた和服の男性だった。

突然の登場に誰もが驚き、薄暮さんは即座に小刀を構える。

けれど、銀髪の男性は弱々しく息を吐いたあと、腹部を押さえながら壁に寄りかかった。


……服から血が滲んでいる。

しかも、尋常じゃない量だ。




「あ、コイツ!! 今朝 私を殺そうとした幽霊ッ!!」

「……幽霊じゃないよ。 俺は陽炎の使い魔だ。 もっとも、あと少しで幽霊という存在になってしまうだろうがね」

「うわっ、怪我してるじゃんっ!! って、私がグーパンしたせい!?」




……どうやらこの男性は、今朝 雨音さんの首を絞めた人らしい。

そして、陽炎の使い魔……。

以前、オサキのニセモノとして私と八峠さんの前に現れた奴だ。

その使い魔が、どうしてここに……?




「イツキ……お前は、イツキか……?」

「あぁ、久しぶりだな、薄暮。
悪いが時間が無いんだ。 オサキ、薄暮に陽炎の居場所を教えてやってくれ。 そして、今すぐその場所に飛んで欲しい」




薄暮さんにイツキと呼ばれたその男性は、弱々しい声で言葉を続けた。




「雪のことをオサキに聞いたのだろう?
だったら早く動いた方がいい。 今あの場所には八峠が居る。 嘘や偽りではなく、本当の話だ」

「え……?」




八峠さんが、カゲロウのところに……?




「八峠は陽炎を殺すつもりで行動している。 だが、陽炎の力の前ではそう長くは持たないだろう」

「……」

「すまない。 八峠が勝てないとわかっていたのに、それでも俺は八峠を陽炎の場所へと運んでしまったんだ」


「……それは、八峠さんが死ねば世界の寿命が延びるからか?」




……『カゲロウの血』である八峠さんが死んだあと、カゲロウはその力を使ってユキさんの命を救う。

そうなれば、カゲロウが暴走することはない……。


だからこの人は、八峠さんをカゲロウの居る場所へ……?


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