「幽霊なんて怖くないッ!!」
「雨音さんっ。こうやって手をかざしていれば、イツキさんは元気になりますかっ……!?」
「わかんないよ、やったことないもんっ!! でも、マンガとかゲームだと手をかざせば回復するじゃん!?」
「……ですよねっ!! 回復呪文とか、いっぱいありますもんねっ!!」
がむしゃらに。
無我夢中に。
自分たちに出来ることを、一生懸命に。
やり方なんてわからない。
こんな風にしたって、イツキさんの力は回復しないかもしれないけれど、でもっ……。
「……このままじゃ、終われないっ……!!」
両手の指先に、力を集中する。
届いて欲しい。
私たちの想い、未来へかける願い。
生きて、感じて欲しいんだ。
「……母さんも双葉ちゃんも、ほんっとに変な人だよな」
そばに居た氷雨くんが、苦笑気味に笑いながらそう言った。
「コイツは敵だったんだよ? 助けたらさ、また敵になるかもしれないじゃん」
「うるさいな、馬鹿氷雨っ。 その時はその時でしょっ!!」
「ま、確かにね」
そう言いながら、氷雨くんは私と雨音さんの間に腰を下ろした。
そして、眠ったままのイツキさんの胸ぐらを掴む。
「イツキさん。 俺らがアンタを助けるからさ、アンタは俺らのことを助けてよ」
「……え? 氷雨くん、何を……?」
「この人はカゲロウの使い魔かもしれないけれど、今からこの人の命を助けるのは俺たちっしょ?
だったら、俺たちに恩返しがあってもいいと思わない?」
恩返し。
氷雨くんがそう言った時、イツキさんが微かに笑ったのが見えた。
「……人間というのは、面白いな……」
「あぁ、面白いよ。 馬鹿みたいなことを本気でやるのが人間だ。
本気でやるからこそ、人は輝くんだよ」
「ふっ…ふふっ……わかった、お前たちを助けてやろう。 だが、使うのは彼女の力だけだ。
双葉 杏……お前の力を、俺に貸してくれ」
そっと、イツキさんの手が私の手を掴む。
その瞬間、私の体からイツキさんの体へと『何か』が移動していった。
……それは、私の体の中にある力……。
『カゲロウの血』である私の力が、イツキさんの体を満たしていく。