「幽霊なんて怖くないッ!!」
……微かなダルさと、めまい、ふらつき。
足がガクガクと震え、立っているのもやっとの状態だ。
そんな私を支えたのは、銀色の髪をなびかせたイツキさんだった。
「すまない、少し吸収しすぎたか」
「……だい、じょぶっ……。 それよりも、イツキさんの体はっ……?」
「あぁ、俺も大丈夫だ。 ありがとう、双葉 杏」
……ありがとう。
まさか、敵だった彼からそんな言葉が聞けるとは思っていなかった。
なんだか不思議な気分だけど、でも、やっぱり嬉しい。
……人は変わることが出来る。
イツキさんは、以前のイツキさんとは違うんだ。
「双葉ちゃん大丈夫? 私の力を分けてあげるっ」
と、私に手をかざす雨音さん。
雨音さんは本気で力を分けようとしているけれど、彼女の力が移動することはなく。
横で苦笑いする氷雨くんと同様、私も苦笑気味に笑みを浮かべた。
「さーてと、じゃあ行こうかイツキさん。 俺らをカゲロウのところへ連れて行ってよ」
「……」
そう言った氷雨くんに、イツキさんは首をゆっくりと横に振った。
「やはり、お前たちは行くべきではないと思う」
「なんでさ?」
「……300年前の戦いで、本来ならば陽炎と薄暮の戦いは終焉を迎えていただろう。
しかし、その場所にオサキが居たために、薄暮はトドメを刺すことを躊躇った。
結果的に陽炎は生き延び、現在に至るまで多くの人間の命が奪われた。
お前たちがそばに居れば 薄暮は再び躊躇い、陽炎にトドメを刺せなくなる。 だからだよ」
……イツキさんの言葉は、的確なものだった。
そっか……そうなんだ。
私たちがそばに居ると、私たちに気を取られて動きが鈍ってしまうかもしれない。
ここぞという時に、私たちのせいで躊躇わせてしまうのかもしれない。
だからこそ、薄暮さんは私たちを連れて行ってはくれなかったんだ……。
そうだよね……少し考えればわかることだ。
やっぱり私たちは、ここで待つしかないんだ……。