「幽霊なんて怖くないッ!!」
「でもさ、イツキさんは行くんだよね?」
氷雨くんの言葉にイツキさんは頷く。
そして、『八峠を放ってはおけないからな』と小さく言った。
「陽炎は、おそらく小屋から離れた場所で薄暮と戦うだろう。
小屋の周囲が戦場となっては、中に居る雪を傷つけてしまうからな。
陽炎と薄暮の動きは、普通の人間では追うことが出来ない。 だから八峠は小屋の周辺に残されていると思う。
八峠と合流し、必要なことがあれば手を貸そうと考えている」
「いやいやいや、ちょっと待って。 カゲロウが近くに居ないのなら、俺らも行っていいじゃん?」
「……俺の言葉は仮定のものだ。 実際にどうなっているかはその場に行くまではわからん。
小屋に着いた瞬間に殺されるかもしれないんだぞ?」
「そん時はそん時っしょ。 つーことで、レッツゴー!!」
ニシシッと笑う氷雨くんは、普段の様子とまったく変わらない。
ううん、行きたくて行きたくてたまらないと いった子供のようだ。
凄く大変な状況なのに、氷雨くんは楽しそうに笑ってる。
……まるで、八峠さんみたい。
──『本気でぶつかった先には、俺たちの運命を変える大きなモノがあるんだよ』
そう言って笑った八峠さんの顔を思い出しながら、私はイツキさんを見た。
「行こう、イツキさん。 もしも私たちが死んだら、幽霊になってでも戦うよ。
カゲロウに操られたりしない。 私たちは、私たちの守りたいものを守るんだ」
私が守りたいのは、みんなの笑顔。
八峠さんの、笑顔を守りたい。