「幽霊なんて怖くないッ!!」
「お前さ、カゲロウにやられたの?」
ふと、八峠さんが聞いてきた。
自分が死にそうな状況に置かれているかもしれないとわかっているのに、それでも八峠さんはいつもと同じ口調だ。
だから私も、なるべく平常心を保ったまま言葉を出した。
「……私は、イツキさんとユキさんに自分の力のほとんどを渡してしまったんです」
「……え?」
「雨音さんが、二人を助けようって言ったんです。
このまま二人を見殺しにするんじゃなくて、生きて、色々なことを知ってから死ぬ方がいいから、って。
私はイツキさんに自分の力を渡してイツキさんを助けました。 そして私たちは、イツキさんと共にユキさんの居る小屋へと飛んだんです」
「……」
「私と雨音さんと氷雨くんは、イツキさんを介してユキさんに力を渡しました。
みんなは多分 無事だと思います。 ……けれど私は、その場で意識を失ったんです」
……そこまでが、私の記憶にある出来事だ。
気がついたらこの闇の中に居たから、それ以降のことはわからない。
「ハクは? 一緒じゃなかったのか?」
「薄暮さんは、イツキさんから事情を聞いたあとに オサキと一緒に先に飛びました。
私たちが小屋に着いた時、薄暮さんもオサキも、カゲロウも近くには居なかったです」
「……そうか」
「あのっ……八峠さんは、カゲロウに……?」
「うん、一撃でやられたよ」
一撃……あんなに強い八峠さんが、一撃でやられてしまったなんて……。
「小屋に着いた時、俺は居た?」
「え? あ、いえ……どこにも居ませんでしたが……」
「そうか。 小屋壊れてただろ? アレ、カゲロウが俺を吹っ飛ばしたからあぁなったんだ」
「えぇ!? じゃ、じゃあ木が倒れてたのもっ……!?」
「吹っ飛ばされた時に体を強打したんだ。 で、俺の記憶はそこでおしまい」
……『何か』が小屋から飛び出したのは、見てわかっていた。
でも、まさかそれがカゲロウに吹っ飛ばされた八峠さんだったなんて……。