「幽霊なんて怖くないッ!!」
覚えているのは、お札を破り捨てた場面。 山の中で泣いているところ。 幽霊たちに追われて、走って逃げているところ。
そして、気がついたら病院のベッドの上に居たこと……。
こうやって振り返ってみると、私の記憶は曖昧で断片的だ。
当時7歳だから、仕方ないといえば仕方ないのかもしれないけれど……。
「あの時の俺は、お前に何度も何度も『札を絶対に離すな』って言ったんだ。
札が命を守ってくれてる。 それを知ってもらいたくて、強い口調で何度も何度も言って……結果、お前に嫌われたわけだ」
「……」
「お前は俺が煩わしくて仕方なかったんだろうなぁ。
お前は持ってた札を破り捨ててさ、『幽霊なんて怖くないッ!!』って言って、外に飛び出しちまったんだよ」
……そんなことが、あったんだ……。
こうやって八峠さんに話を聞いていても、まだ他人事のように思ってしまう。
「あの時 札を捨てたお前は、本当に馬鹿だと思ったよ。 でもその馬鹿な行為をさせちまったのは俺だ。
俺があんな風に何度も何度も強く言ってたから、お前は札の存在自体がイヤになっちまったんだもんな」
「……全然、覚えてないんですけどね……」
「でもそれが事実だよ。 お前に怖い思いをさせちまったのは、間違いなく俺だ」
……少しだけ、言葉が止まる。
真っ暗な闇の中で 彼が何を考えているのかはわらかないけれど、私はただ、八峠さんが再び話し始めるのを待っていた。
「……正直言うと、俺の記憶も曖昧なんだ」
「え……?」
「俺は多分、お前を追いかけて外に行ったと思う。 でもそのあとのことは あまり思い出せないんだ。
山ん中を走って、幽霊と戦って、また走って……そしていつの間にか病院のベッドの上に居た。
親戚連中の話じゃ、俺とお前は崖の下で倒れてたらしいけど、全然記憶無し。
医者には一時的な記憶障害じゃないかって言われたけど、今になっても何も思い出せないんだ」
……八峠さんも、思い出せない記憶があるんだ……。
「……ココのことも、入るまではすっかり忘れてたよ。 でも思い出したんだ。
ココは魂の保管場所……死を待つ人間が来る場所なんだ」