「幽霊なんて怖くないッ!!」
「これで満足かい、魅月 雨音」
「うん、ありがとう。 本当にありがとう」
「では次の話題に移ろう。 俺にはユキが必要だ。 だから雪をこちらに渡してくれるね?
素直に渡してくれれば、キミたちの命は助けるよ。 今後も狙うことは無い」
「……『カゲロウの血』である双葉ちゃんのことも?」
「あぁ、この先 狙わないと約束しよう。 他の『カゲロウの血』がどうなるかはわからないがね」
にっこりと笑う顔に、悪意は無い。
……無自覚の悪意……か……。 カゲロウという人は、本当に怖い人だ。
でも……。
「……あなたは、凄く子供だね」
……何百年も生きているカゲロウのことが、小さな子供に見える。
自我が芽生えてきたばかりで、我慢を知らない
幼い子供だ。
「……確かに『生きる』というのは誰かの犠牲の上で成り立っているのかもしれない。
けれど、どんな理由があったって 人が人の命を奪うなんて、そんなのダメだよ。
今を生きている私たちは、今を一生懸命に生きて、そしていつか死ぬ。 ……永遠の命を望んでいても、死を受け入れなきゃいけないんだよ」
精一杯に生きて、そして死ぬ。
そうやって魂や想いは未来へと繋がっていくんだ。
確かにカゲロウは不老不死だし、薄暮さんもそうだ。
でも。
不老不死の水が枯れたのは、この星が生と死を望んだからなんじゃないかな?
一生懸命に生きるということを、教えてくれようとしたんじゃないのかな……?
「……ユキさんは渡さない。 この人は今を一生懸命に生きて、そして『いい人生だった』と言って最期を迎えるんだよ。
今まで多くの人の命が奪われたけれど、これからはもうその必要はない。
今を一生懸命に生きて、亡くなった人たちの分まで精一杯に生きることが償いなんだ」