「幽霊なんて怖くないッ!!」
緊張状態が続いてる中なのに、薄暮さんの笑みは柔らかい。
いつの間にか構えていた拳も下ろしていたし、拳を纏っていた気も消えている。
……薄暮さんは、とても穏やかな表情でカゲロウを見ていた。
「あの時の僕は、お前を殺したくて仕方がなかった。 みんなの敵を討てるのは僕だけ。 そう思っていたから、とにかく必死だったのを覚えているよ。
でも、山が噴火した時……逃げ遅れたオサキを見た時に、僕の心には迷いが出来てしまったんだ」
「……」
「その一瞬の迷いでお前を取り逃がし、その後の300年で多くの命が奪われることとなった。
全部 僕のせい。 オサキを助けずにカゲロウを殺しておけば。と、300年の間に何度も思ったよ」
深く息を吸い、ゆっくりと吐き出す。
薄暮さんはそっと私の手を握ったあと、静かに静かに言葉を繋げていった。
「全部 僕のせいだから、全部 僕が守ろうと思っていた。 みんなの笑顔を消したくはなかったんだ」
「……残念だが、それは叶わぬ夢だよ。 もうすぐ全てが終わる。 お前の守ってきたものは、全部消えるんだ」
「僕は消えるかもしれないけれど、彼女たちの命は奪わせない。
だって彼女たちの人生はお前のものじゃなくて、彼女たちのものだから」
……私たちの人生は、私たちのもの……。
薄暮さんの真っ直ぐな言葉を受けたカゲロウは、私たちを見下した目をしながら笑った。
「全部俺のものだよ。 俺のために、お前らは全員死ぬんだっ!!」
カゲロウの声に反応した幽霊たちが、一斉に襲いかかってくる。
薄暮さんは再び臨戦態勢に入り、私は近くに落ちていた棒を拾って構えた。
真っ黒な塊。
逃げ道は無い。
……でも、逃げる気も無い。
「薄暮くんが言う通り、私の人生は私のものっ!!」
強烈なパンチをお見舞いする雨音さん。
「俺も自分のために生きてきたし、これからだって自分のために生きるッ!!」
パンチとキックのコンビネーションで幽霊を撃破していく氷雨くん。
そして……、
「……幽霊なんて、怖くないッ!!」
……私もまた、自分に出来る精一杯をやろうとしていた。